Artificial Intelligence

――AIが進化する中、教育はどのようにしていくべきでしょうか。

「仕事がAIに置き換えられる速さに教育が追いつくとは思えない。ただ全ての問題を解決できる魔法の箱はない。現状のAIは限定的な問題しか解決できない。翻訳業務も部分的に自動化されるが、地域の文化を踏まえた細かな調整までされるには時間を要する。意思決定や判断、創造性に関わる仕事はAIに置き換えられにくい」

――AIによる自動化を我々はどう受け入れていくべきでしょうか。

「人と人のやり取りに価値を見いだす部分もある。13年の調査で飲食店の店員を置き換えるのは難しいという意外な結果が出たが、実際に予測通りになっている印象だ。未来は技術で決まっているわけではない。消費者がどこまで自動化を求めるのか。技術だけでは代替できない要素は多い」

 Michael Osborne 専門分野は機械学習。2013年の共著論文「雇用の未来」で技術と雇用を分析した。

――生命工学の進展は生命体としての人間を根本から変えかねません。

「ゲノム編集や生命工学で寿命が延びるほか、宇宙で生存できる体が手に入るかもしれない。問題は人間の体にどこまで手を入れるかだ。一番の懸念は人間同士の差別が生じかねないこと。通常の人間と、体や知性がハイグレードになった人間との間に溝ができ、争いの火種になりかねない」

――常識を超えかねない未来で何を心がけて生きるべきでしょう。

「人間が体を持つ生物であることを忘れてはいけない。それを忘れれば機械に近づく。機械のことは100%分かるが、生命のことは完全には分からない。だから人は五感を使い、分かり合おうとする」

「人間は自身の能力を感性と知能に分けて考えるようになった。AIは感性を捨て置いて戦略を立てるが、そこには『なぜそうしたいか』という目的が必要。目的は感性に基づく感情や欲求から生じ、人間だから設定できる。感情や欲求を持ち続けられるかが人間と機械の分岐点になる」

 やまぎわ・じゅいち 霊長類学者。著書に「ゴリラからの警告『人間社会、ここがおかしい』」など。